【その他】令和の大企業は、協力会社(中小企業)の事業継続を積極的に支援したい
私は大手企業といわれる設備工事会社に勤務しています。設備工事会社はお客様から直接、またはゼネコン等を通じて設備工事を受注し、自社の工事部または協力会社によって施工します。この協力会社の大半は中小企業です。
そこで建設業における大企業と中小企業の関係について書きたいと思います。
重層下請け、つまり受注した仕事を2次下請け、3次下請けが施工する業態である建設業において協力会社は自社にとっての「施工力」、つまり実力そのものであり、重要な経営資源です。
元請会社からすれば、優秀な協力会社と良い関係を築けていれば大規模工事や難工事を施工することも可能であり、その実績によりゼネコンやサブコン(ゼネコンの下請などとして、土木・建築工事の一部を請負う建設業者を指し、設備工事業者を指すことが多い)の評価が上がります。
ゼネコンやサブコンの不安
しかし3Kと言われ、新入社員の獲得に苦労し、後継者問題で苦労する企業もあり現在の協力会社を永続的に確保できる保証はありません。
中長期的に中小企業は廃業等により減少傾向にありますが、協力会社に仕事を発注する側にとっても無視できないこととなります。
なぜならば、優秀な協力会社の存在がなければそれは自社の施工力が低下することであり、仕事を受けてくれる協力会社の存在が無ければ、受注できる工事があってもお断りすることとなり、元請会社自身の業績の低下を招きます。
現在、私の勤める会社では協力会社の事業継続力・経営力向上が不可欠であるため、事業承継や人材獲得、資金繰りなどの経営上の諸問題に対する相談窓口を新たに設置しております。なお建設業の大手企業ではどこも協力会社組織を持っていますが、相談窓口の設置は新しい試みではないかと思われます。
相談内容に制限は設けておらず、全国の支店に相談窓口を設置し、秘密厳守の上で本店にて統括管理しています。
開始から半年が経過し、全く反応がなかったわけでもありませんが、すぐに利用が増えることはありませんでした。
200社以上の協力会社に対し、相談実績は10件程度です。
経営に何の不安要素もない協力会社ばかりだったわけではありません。では利用が増えない原因はなぜなのか?
行政の取組み
経営者の高齢化、労働力人口の減少など企業は将来的に減少が予想され、それは国力の低下に直結するため、国としても優良な中小企業の事業継続に力を入れています。
神戸市でもその危機感を持っており、市内の中小企業の事業承継に対する相談窓口と組織を設置し、相談内容に応じて専門家との橋渡しをするという取り組みを行っています。
そこで、当社の取組みの参考になると思い、そのセミナーを受講しました。
神戸市では取り組みをPRするだけではなく、市内の中小企業をリストにして、積極的に事業承継問題の有無を聞き取りに回ったそうですが、活動途上ではあるもののなかなか組織の力をフル活用できるくらいの相談事例は蓄積できていないそうです。
その理由は大きく2つありました。
- 「目の前の仕事に追われ、事業承継等将来的な問題に対処する時間がない。」
- 「取り組まなければいけないことはわかっているが、すぐに相談して取り組む気になれない。」
といった早期に取り組むべき中小企業側にも問題先送りの姿勢が見られることです。
以上から考えられることは、
- 事業承継問題に早期に着手すべき中小企業は存在するけれどもその存在は見えにくく、着手してもすぐに解決する問題ではないので先送りにされがちである。
- 人材確保についても、継続的に新入社員が入社してくれる企業ばかりではないけれど一人親方の応援などでなんとかなってしまう。
- 現在建設業は景気が良いので、資金繰りが死活問題になるほどではない。
といった差し迫った問題は無いので、相談までに至らないことです。
積極的なサポートの試み
そこで、当社では相談が来るのを待つだけでなく、こちら側からも積極的なアプローチが必要との認識となりました。
まずはホームページのセミナーを開催することになりました。その理由は、協力会社へヒアリングを行った結果、まず着手できそうな課題が下記のことだったからです。
- 新入社員を募集したいが、ハローワークに登録しても人が集まらない。といった従来型のリクルート手段しか実施できていない企業がある。
- ホームページについて特に意識していない。どうすればいいかよくわからない。といったホームページを活用しきれていない企業が多い。
現代の新入社員のリクルーティングにおいてホームページは重要な手段ですが、協力会社にはホームページを持っていない、過去に作ったシンプルなホームページのままであるというところも多く、まずは「ホームページは重視していない」という意識を変えることから始めなければなりません。
ホームページの重要性、リクルーティングに必要なコンテンツなどを知ってもらった上で、各協力会社が自主的にホームページを作ってくれる企業に発注してくれる事を狙っています。
自主的に動けない協力会社のために、元請企業側から取材から作成までの手配をする必要が出てくるかもしれません。
まだ相談実績のない事業承継については、意欲的な後継者がいればいいのですが、そうでない場合は後継者探しや同業他社とのM&Aによる吸収合併など、廃業以外の選択肢を考えておく必要があるでしょう。
資金、資格、負債など事業承継には様々な問題が生じる上、長い時間のかかる問題であり、他人に知られたくない心理もあるので、じっくりと信頼関係を醸成して相談を引き出していかなければなりません。
絶対に手放したくない協力会社とは
元請企業から見た優秀な協力会社とは、安全に適切なコストで納期通りに高品質な施工をしてくれる企業であり、さらにマネージメントをする元請企業側の担当者と協力して、施主の要求をかなえたり、現場のコストを削減したりしてより良い現場を作り上げてくれるパートナーを指します。こういった協力会社を元請企業は手放せません。
他の元請企業との奪い合いになります元請企業の切実な願いとして、優秀な協力会社の後継者難や従業員不足による廃業は絶対避けたいと考えています。
元請企業は協力会社が施工しやすいように、同じ現場内での他業者との調整をしっかり行い、無理な工期とならないように意識して、協力会社に余計なストレスをかけない配慮が必要です。
また協力会社の経営にも配慮してタイミングよく継続的に工事を発注する必要があります。
工事を発注できなければ協力会社も離れてしまうからです。元請企業と協力会社は共存共栄なのです。
まとめ
最後に中小企業である協力会社は、元請企業である大企業をどう利用すべきでしょうか。建設業であれば大企業は協力会社の会を持っています。
この会に入会しているのであれば、つまり常連の協力会社であるなら、協力会社の経営上の問題を解決するために、充実した事務部門を持つ大企業の経営資源(人材、専門知識など)を活用するべきと考えます。
問題が生じていることを協力会社の会合で、元請企業側の参加者に伝えることが必要です。大企業は弁護士事務所とも契約しているので、協力会社同士のM&Aにおける会社法のチェックなど法律的な対応も可能です。
元請企業は協力会社の永続性を願っていますが、協力依頼が無ければ動けない面があります。協力会社は事業承継や従業員の確保といった時間のかかる諸問題について、なるべく早く解決のために動き出し、必要に応じて協力を依頼しつつ前に進むことが必要です。